1.不正事例の概要

東証第一部上場の精密機器メーカーX社の、中国の連結子会社B社において、以下の不適切な会計処理が行われていた。

・標準原価操作による売上原価の過少計上

・董事長の指示による、収益及び費用の計上時期の操作

不適切な会計処理による連結業績への影響額は、平成29年3月期第3四半期累計期間から平成31年3月期第3四半期累計期間で合計4億40百万円の損失となった。

 

2.事例研究の概要

上記1.の不正事例について、どのような監査手続を行えば発見できたかという観点から、下記の手順に従って研究を行った。

(1)特別調査委員会の調査報告書を読み、当協会が提供する仮説立案のフレームワークを利用して検討し、監査テーマを確定した。

<確定した監査テーマ>

@   在庫の過大計上のリスク

A   経営幹部の指示により、不正な仕訳が入力される、または経営幹部自らが不適切な仕訳を入力するリスク

B   経営幹部の指示により、連結パッケージ上で利益操作が行われるリスク

検討過程は、仮説立案ワークシート(※1)に記載の通り。

(2)当協会が提供する仮説検証手続立案のフレームワークを利用して、上記(1)の監査テーマを検証するために必要なデータの特定、CAATsを利用した監査手続の立案を行った。

<立案した監査手続>

@   製品の標準原価について、ERPシステムの直近のデータ(2018410日更新)を入手し、対応する月(20183)の財務科保管のデータと製品番号ごとに一致するかどうか確認する。

A   製品の標準原価について、財務科が保管している標準原価データが月次で変動していないか確かめる。

B        仕掛品の標準原価について、財務科保管の標準原価データを製品番号ごとに月次比較し、工期に応じて変動しているかどうか確かめる。

C   入力者と承認者が同一の仕訳を抽出し、妥当性を検証する。

D   定型的な処理以外の戻し処理の仕訳を抽出し、妥当性を検証する。

E   事業部別月次試算表のデータと連結パッケージのデータが月次で一致するかどうかを確かめる。

検討過程は、仮説検証手続立案ワークシート(※1)に記載の通り。

(3)上記(2)で立案した@、A、Bの監査手続について、当協会が提供するデータ処理手順書のひな型を利用して、CAATsツールを利用した監査手続の具体的な手順を計画した。

 計画した監査手続の手順は、データ処理手順書(※2)に記載の通り。

(4)上記(2)で特定した必要なデータをもとに当協会が作成したデモデータ(※2)を利用し、上記(3)のデータ処理手順書に従い、CAATsツールを利用して監査手続を行った。

CAATsツールを利用して監査手続については、ACL™ Analyticsのプロジェクトファイル(※2)をご参照。

(※1)法人会員、正会員および準会員の方にご覧いただけます。

(※2法人会員および正会員の方にご覧いただけます。

 

研究報告の成果物をご自身の業務のヒントとしてご活用いただけますと幸いです。

法人会員の方および正会員の方は、データ処理手順書、ACLAnalyticsのプロジェクトファイルおよびデモデータをご利用いただけますので、ACLAnalyticsの操作も併せてご確認ください。

 

 

以上