1. CAATsを活用した労務監査の事例概要
労務管理に関する監査を題材に、従来から感じていた課題とその改善のために導入した「CAATsを活用したモニタリング」に関する監査事例を研究した。
<労務監査上で感じていた課題>
従来の労務監査では、膨大な人事労務系データと社員の行動記録等の照合を行うことができず、全社ベースにおける労務状況やその実態把握に課題を感じていた。
<CAATsによる課題の改善に対する取り組みとその効果の紹介>
上記課題に対して、CAATsを活用して人事労務系データと社員の行動記録等の照合を行い、定期的にモニタリングを行うことで、従来の課題を大幅に改善することができた。
従来感じていた課題 |
CAATs活用による効果 |
・全社の状況を把握できない ・被監査部門の一部の把握に留まっている ・全社レベルでの実態が不明 |
・全社の状況把握が可能となった ・月次単位で全社状況を全部門にレポートを提出し、タイムリーな情報共有と実態把握が可能となった |
・各部門のマネージャーが実態把握できず、データに基づいた的確な指導ができない |
・モニタリングによりマネージャーによるタイムリーな指導が可能となった ・社員の適切な業務管理に対する意識が向上した |
・取締役が善管注意義務違反や安全配慮義務不履行を問われることのない管理体制の構築 |
・労働時間の管理体制が構築でき、善管注意義務、安全配慮義務の履行を説明できる体制が整った |
<CAATs活用による効果を得るための2つのポイント>
(1)モニタリング対象とする組織範囲の段階的な拡大
部署やグループ会社など、組織によって勤務体系が異なる場合があることから、モニタリングの対象とする組織範囲等を段階的に拡大して監査の品質の向上に取り組むことがポイントであった。
(2)第2ディフェンスラインとの連携強化
労務に関する監査は、非常に機微な情報を扱う場面もあることから、第2ディフェンスラインである人事労務担当部門との密な連携を行い、丁寧に監査手続を実施していくことが非常に重要であった。
2. CAATsを活用したモニタリングの概要
上記1.の労務監査事例を題材に、どのようなモニタリング手続を行って実現したかという観点から、下記の手順に従って研究を行った。
(1)
当協会が提供する仮説立案のフレームワークを利用して検討し、監査テーマを確定した。
<確定した監査テーマ>
● 時間外労働手当(残業代)の全部または一部を支払わずに労働時間を超えて従業員を働かせるリスク
(未払残業、サービス残業にかかるリスク)
検討過程は、労務監査手続立案シート(※1)に記載の通り。
(2)
当協会が提供する仮説検証手続立案のフレームワークを利用して、上記(1)の監査テーマを検証するために必要なデータの特定、CAATsを利用した監査手続の立案を行った。
<リスクが顕在化した場合に現れる事象>
l 休暇日(打刻発生無し)にもかかわらず入退館ログがある。
l 入館をしてから数時間経過後に出勤打刻を行っている。
l
退勤打刻をしてから数時間経過後に退館している。
<立案した監査手続>
@休暇日(打刻発生なし)にもかかわらず入退館ログがあるレコードを抽出して、該当する社員および出社したと想定される日付を特定し、その理由を確認する。
A入退館データ(発生時刻)と出退勤データ(出退勤時刻)を比較して、2時間超の乖離発生者を抽出する。
検討過程は、労務監査手続立案シート(※1)に記載の通り。
(3)
上記(2)で立案した@、Aの監査手続について、当協会が提供するデータ処理手順書のひな型を利用して、CAATsツールを利用した監査手続の具体的な手順を計画した。
計画した監査手続の手順は、データ処理・分析手続一覧書(※2)に記載の通り。
(4)
上記(2)で特定した必要なデータをもとに当協会が作成したデモデータ(※2)を利用し、上記(3)のデータ処理・分析手続一覧書に従い、CAATsツールを利用して監査手続を行った。
CAATsツールを利用して監査手続については、ACL™
Analyticsのプロジェクトファイル(※2)をご参照。
(※1)法人会員、正会員および準会員の方にご覧いただけます。
研究報告の成果物をご自身の業務のヒントとしてご活用いただけますと幸いです。
法人会員の方および正会員の方は、データ処理手順書、ACL™ Analyticsのプロジェクトファイルおよびデモデータをご利用いただけますので、ACL™ Analyticsの操作も併せてご確認ください。
以上