Loading...

活動報告

<清稜監査法人>「CAATsの更なる有効活用とCAATsの継続的な実施の実現について」

最終更新日時:2019年03月06日

カテゴリー:

2019年1月28日(月)
清稜監査法人の代表社員会長 石井和也様、松田 吉彦様に、ICAEA JAPANの代表理事弓塲が、CAATsの更なる有効活用と継続的な実施を実現するために、CAATsツールを導入された経緯や今後の活用方法、また当協会に対する期待などを伺いました。

 
 石井 和也様(写真右)
 清稜監査法人
 代表社員会長 公認会計士
 【略歴】
 199310月清稜監査法人に入所。
 2008 8月清稜監査法人代表社員会長に就任。
 
 松田 吉彦様(写真左)
 清稜監査法人
 会計士補
 【略歴】
 199710月清稜監査法人に入所。

 

—貴法人の法人概要ついて教えてください

01_seiryo-audit

弓塲:この度はお忙しいところお時間をいただきましてありがとうございます。
貴法人では、ExcelのVBAを駆使して高度なデータ処理を行っておられるとお聞きしました。ぜひ、詳しいお話を伺いたく、今回のインタビューを設定させていただきました。
ご承知の通り、CAATsは、監査人が「パソコンとデータを使って監査手続を実施する技法」ですので、貴法人では、既にCAATsを実務で十分に活用されていらっしゃると思います。2018年12月にCAATsツールであるACLの使い方を中心とした研修を開催させていただきましたが、その後、早速、ACLのライセンスを購入されたとお聞きしました。既にExcelを用いてCAATsを実践されている貴法人が敢えてACLを導入された背景や理由などについてお聞きしたいと思います。また、できましたら、研修の感想なども伺えればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

弓塲:まず簡単に、貴法人の概要をお話しいただけますか。

02_seiryo-audit

石井様:私どもの法人は、社員が14名、職員が11名、非常勤を含めて約70名の規模で運営しています。クライアントは、金商法と会社法の監査を行っている会社が6社、金商法のみが1社、会社法のみが3社です。当法人の強みは学校法人の監査であり、全国で428社を担当させていただいています。また、社会福祉法人も17社、今年から医療法人も3社ほど増えています。

弓塲:学校法人が、428社とはすごいですね。

石井様:ほとんどが幼稚園関係になっています。

弓塲:なるほど。
限られた人数でどうやってこれだけ多くの学校法人の監査をされているのでしょうか?

石井様:学校法人の場合は、小規模の法人が多いということもあり、実施すべき手続を概ねパターン化することができています。パターン化できているので、Excelのマクロを使うことで一連の手続が実施できるようになっています。

弓塲:Excelのマクロというのは、先日少し拝見させていただいたVBAで開発されたマクロのことでしょうか。

石井様:そうですね。VBAで開発しています。
ほとんどが、特定のアプリケーションソフトから出力されるデータをソースデータとしていますので、データを自動で取り込んだ上で、月別表の作成や、その他必要な手続を大部分で自動化しています。

弓塲:現在、幼稚園をはじめ学校法人は、共通の会計パッケージを使われているのですか?

石井様:そうですね。
パッケージには何種類かありますが、学校法人、社会福祉法人も概ね共通したものを使用していますので、マクロを活用することで、大部分を自動化することができていると思います。

弓塲:その会計パッケージは、各社のパソコンにインストールされているものですか?それとも、クラウドのような形で利用されているのですか?

石井様:会計事務所からcsv形式でデータを送ってもらっています。

弓塲:とはいえ、400社以上となりますと、400以上のファイルが年次か月次で送られてくるわけで、それは、結構な作業になりますね。

石井様:まあそうですね。ただ、その業務は会計士ではなく、事務の方に対応してもらっています。

弓塲:貴法人は、上場会社もご担当されていますが、特に学校法人に強みがあるということですね。

03_seiryo-audit

—既に Excel等を高度に活用して監査手続を実践されている中で、なぜ今、CAATsツール(ACL)の導入を検討されたのでしょうか?

弓塲:では2つ目の質問になりますが、すでにExcelなどを活用して監査手続を実施されている中で、CAATsツールをACLに変更しようと思われた背景や理由をお聞かせください。

石井様:変更というよりも追加というイメージでしょうか。

04_seiryo-audit

弓塲:なるほど。

石井様:学校法人に関しては、従来通りのExcelで手続を実施していてもそれほど大きな問題はないかと考えています。一方で、一般事業会社は、手続を十分にパターン化することができていないので、この部分についてACLを活用してやっていけたらと思っています。
現時点では、学校法人の手法を応用して一般事業会社の仕訳分析をExcelで実施しているのですが、そのほかの手続についてはCAATsの導入は手付かずの状態となっています。また、全社員、職員が同じようなレベルで取り組んでいるわけではなく、私が中心となって実施している状況ですね。

弓塲:なるほど。
従来の手法を一般事業会社の会計監査の部分に応用できるところはしているけれど、それ以外の手続の部分で主にACLを使って、より高度化を図っていきたいということですね。

石井様:はい。その通りです。

弓塲:松田様はデータを使ってどのような手続をされているのでしょうか。

松田様:基本的には、Excelを活用して主に学校法人でデータを利用した監査を行っています。一般事業会社の監査では、私自身が仕訳テストの手続にあまり携わっていないのですが、例えば、在庫データを会社から入手して、Excelを使って再計算をしています。私は、マクロに関する知見はないため、関数やピポットテーブルなどを使って集計しています。
今後は、こういった手続も含めてACLを使って色々できたらいいなと思っています。

弓塲:既にExcelを使って在庫分析などをされているということですが、今後、ACLを使ってどういう手続をしていきたいと思われているのでしょうか。

松田様:今は再計算が中心で、集計結果が正しいかどうかという視点でしかデータを活用できていないのですが、今後は、例えば評価等の面でも活用できたらいいなと思っています。

弓塲:なるほど。
研修では、ACLのスクリプトを活用した処理の自動化と調書作成の効率化について、熱くお伝えしたつもりですが、ACLのスクリプトを実務で活用したいと思われましたか。

松田様:はい。私自身がもっと習熟していく必要はありますが、まずは、以前に実施した作業をそのまま活用できるというスクリプトの作り方からマスターしていきたいと思っています。

弓塲:そうですね。ACLはプログラム言語の知識がなくても処理の自動化ができる、スクリプトという簡易的なプログラムを作成できることが大きな強みの一つですから、是非、スクリプトを活用して監査の効率化に役立てていただきたいと思います。
さて、先程、VBAで開発したExcelのマクロを使って多くの事をされていると石井様に伺いましたが、VBAはかなり高度な知識が必要になってくると思います。そのあたりで何か課題はおありでしょうか。
たとえば、Excelのマクロをメンテナンスする際に石井様の他に対応できる方はいらっしゃるのでしょうか。

石井様:簡単なものであれば、対応できる方は居るのですが、複雑なプログラムになってくると、残念ながら現在は対応できる人材がいない状態です。

弓塲:私自身、CAATsに長年携わってきて、大きく2つの問題意識を持っていました。1つは、研修の時にもお話ししましたが、CAATsを活用した手続の調書化の部分です。如何にして簡単に、効果的、効率的に手続の実施過程を調書として残していくかということです。もう1つは、手続を実施するために作成したプログラムを他の人がメンテナンスできるようにするためにはどうすればよいかということです。
この2つの問題意識を解決する手段がACLでして、私自身が皆さんにCAATsツールとしてACLをお勧めしている理由です。
前者については、ACLで簡易的なプログラムであるスクリプトをうまく活用すれば自動的に手続の実施過程の調書が作成することができます。後者についても、VBAは言語の勉強が必要ですが、ACLの場合は、ACLが生成した操作履歴をコピーして所定の場所に貼り付けるだけで、簡単にスクリプトが作成できるため、非常に短い時間で誰でもスクリプトの作成方法を習得することができます。
私は、ACL日本語版が発売される前は様々なソフトウェアを利用してCAATsを実施していました。例えば、Accessを積極的に使っていた時期もありましたが、同僚や後輩にクエリを使ってもらえるようにマニュアルを作ったり、説明をしたりして、努力しましたが、Accessのクエリを習得できた人はほとんどいませんでした。

06_seiryo-audit

石井様:難しいですね、クエリは。なかなか概念が難しいですよね。CAATsを本当に定着させようと思うと、CAATsツールで作成したプログラムを理解できる人を増やす必要がありますよね。

弓塲:はい。その通りだと思います。
今までのお話しを伺い、貴法人では、学校法人はじめ、これからは一般事業会社にもこれまで以上に積極的にパソコンとデータを使って手続を実施していくというビジョンをお持ちだと理解しました。こうした中で、プログラムを作って手続を自動化する部分の引継ぎをしていくことも重要だと思いますが、現状も踏まえてそのあたりはどのようにお考えでしょうか。

07_seiryo-audit

石井様:はい。ACLを導入する主な理由の1つがそれです。
ExcelのVBAを使って自動化している手続については、私が在職している間は良いのですが、引退も視野に入ってきていますので、課題と感じています。
よって、誰でもプログラムを理解できて、作成できるようなソフトウェアが必要と思っていたところにACLのことを教えていただいたというところです。

弓塲:既にACLを導入されているんですよね。

松田様:はい。今、3ライセンス導入しています。

弓塲:それでは、これから学校法人以外のクライアントの監査でもお使いになるのですね。

石井様:はい。その予定です。

弓塲:方法論はいくつもあると思いますが、貴法人の場合、既に在庫データの再計算等をExcelで実施されているというお話でしたので、まずはExcelで実施している手続をACLに置き換えてみるというところから始められてもよいかと思います。
あるべきで言うと手続立案、データ特定、云々ですが、まずは使えるようになることが大事だと思います。
何ができるかが分かってくれば、手続のバリエーションが増えてくると思います。
例えば、上期にExcelで実施した手続を、下期にACLでやってみる、などから始められるとよいのではないかと思います。


—今後、CAATsツールであるACLに何を期待されますか?

弓塲:他に何かCAATsツールであるACLに期待されていることはありますか。

石井様:将来的に、会計もFinTechに始まってAI化が進んできており、それに対応していく必要はあるのかなと思っています。そこで、CAATsツールであるACLもそれに応じて進化していって欲しいなと思います。

弓塲:おっしゃる通り、FinTechなどは特にそうなのですが、原始証憑そのものがデータになりますので、そもそもデータを見ないと手続はできないはずですよね。

石井様:ACLを導入する2つ目の理由がそれですね。乗り遅れないように(笑)。

09_seiryo-audit

弓塲:十分、キャッチアップしていらっしゃいますよ!
ただ、それはとても重要なポイントですね。AIが監査の分野でどのように活用されるのかはまだまだ予測がつかない段階にありますが、1つ分かっていることは、先ほど申し上げたようにFinTechなどはデータそのものが原始証憑になっているということです。データを使って分析できないと実質的な監査はできません。特にFinTechの分野になるとデータ量がかなり多くなるため、大量データを扱えるCAATsツールとそのCAATsツールを扱える技術を監査人が有していないと、実質的な監査ができない状況になるのではないかと思います。
ですから、大きな決断だったかと思いますが、この時期にCAATsツールであるACLを導入されたということはタイミング的にもよかったのではないでしょうか。


—中小監査法人というお立場でIT監査についてどのように対応されていくお考えでしょうか。

弓塲:次に、中小監査法人というお立場でIT監査についてどのように対応されていくお考えでしょうか。

10_seiryo-audit

石井様:そうですね。
当法人にも、1名ITエキスパートが在籍しております。
そうした方から、アドバイスを得ながら今後もやっていきたいと思っています。やはり会社のITを監査する上で、IT専門家の位置付けは重要だと考えています。一方で、Excelで監査手続を実施するには限界の状況になってきています。Excelで扱えるデータ量は100万行までとなっていますが、実際に会社のデータを取り込もうとすると4,000万行ほどのボリュームとなりますので、ExcelやAccessの限界を超えており、それに対応する時期に来ていると思います。

弓塲:松田様は、IT担当をされているのですか。

松田様:もともとはITに関して素人でしたが、現在は法人内でIT担当の位置付けにあります。

11_seiryo-audit

弓塲:研修にも積極的に参加いただいておりましたので、今後ご自身のキャリアとしてはどのようにお考えですか。

松田様:そうですね。
できればIT方面で何かできればなと思っています。ACLをきちっと使いこなしていくことで、自分の強みになるのかなと思っています。

弓塲:お1人でも、松田様のようなお考えを持たれている方が法人にいらっしゃると、拡がりが出てくると思います。1人習熟した方がいると、周りの方も質問しやすいですし、質問を調べたりすることで、ご自身のスキルアップになるだけでなく、周りの方々にもCAATsが身近なものになっていくと思います。さらにそれが文化として定着すると、事務所全体でかなり効率的になりますし、やっていて楽しくなると思います。是非そういう世界を実現していただきたいと思います。

石井様:そうですね。法人の中で何名か選抜した上で、ACLを自由自在に扱えるように育成していきたいなと思っています。

弓塲:そうですね。
既にACLの基本的な操作方法については、先日の研修でレクチャーさせていただきましたので、あとは使い込んでいただければ普通に操作ができるようになると思います。もし、次に研修を開催するとしたら、ACLの高度なスクリプトの研修になりますね。
一般的にプログラムは、順次処理、条件分岐処理、繰り返し処理の3つに分類して考えることができます。先日の基本編の研修では、順次処理、条件分岐処理の方法はお伝えしました。つまり、この2つの処理は、操作履歴を利用してプログラムを簡単に作成することができます。この方法でできない処理が、繰り返し処理になります。ACLで繰り返し処理をするためには、操作履歴の利用ではなく、プログラムを書く行為が必要になってきます。

石井様:繰り返し処理もACLのスクリプトで実現できるのでしょうか。

弓塲:はい、できます。

石井様:ACLで本格的なプログラムも開発できるということでしょうか。

弓塲:はい、できます。スクリプトそのものを1から作ることになりますが、繰り返し処理もできます。

石井様:それでは、大概のことはできそうですね(笑)。

12_seiryo-audit

弓塲:はい。できますね。

石井様:繰り返し処理ができなかったら、監査手続として実施できる範囲がかなり狭まるかなと思っていました。

弓塲:通常の監査手続では、繰り返し処理を使わなくても概ね対応できると思いますが、貴法人がExcelで実施されているような高度な処理をACLで行いたいというお声もお聞きしていますので、今年は新たな研修コースとして、繰り返し処理やプログラム開発に必要な変数の使い方、対話型プログラムの開発法などを盛り込んだACLの高度なスクリプト研修を企画する予定です。
この研修を松田様はじめITエキスパートの方に受講いただければ、VBAベースのプログラムもゆくゆくは他の人でもメンテナンス可能なACLに置換えていくこともできるのではないかでしょうか。


—ICAEA JAPANの研修を実際に受講されたご感想は?

弓塲:では、先日研修を受講いただいて、当初期待していたこと、受講してみてどうだったかなど、忌憚のないご意見をお聞かせ願えないでしょうか。今後の改善にも活かしていきたいと思っております。

石井様:当初想定していた研修の範囲としては、まず1つ目は、ACLで何ができるか、ということを知りたかったことです。2つ目は、どうやるか、つまり操作方法を知りたかったということでした。この2つについてはかなり満足できるような研修だったと思います。

13_seiryo-audit

弓塲:ありがとうございます。
率直なご意見も、お願いします(笑)

石井様:(笑)
率直な意見としては、操作方法について思っていた以上に簡単かな、というイメージを持っています。

弓塲:ありがとうございます。

石井様:これだったら誰でもできるようになるなと思いました。
いずれにしても慣れていただく必要はあると思いますが。

弓塲:皆さんExcelができるのは、それだけ多くの時間Excelを使っているからだと思います。一方で、ACLの操作ができない人が相対的に多いのはACLに触れる機会が少ないからだと思っています。

石井様・松田様:そうですね。

弓塲:私がACLを使えるのは、皆さんよりもちょっとだけACLを使う時間が長いだけだと思います。ACLでは、多くの手続がメニュー操作で実施できます。そして、操作履歴を右クリックしてコピーして貼り付けるだけでスクリプトができますので、非常に簡単だと思っています。Accessのクエリよりずっと簡単かなと思います。

石井様:そうですね、私もAccessのクエリに比べると、随分、馴染みやすいという印象を受けました。

14_seiryo-audit

弓塲:研修へのご期待、すなわち、ACLで何ができるか、ACLの操作方法については、ご満足いただけたということで安心しました(笑)。
最初に研修のご依頼をいただいた時には2日間という限られた日程でしたので、どういうプログラムにすればご期待に応えることができるだろうと、正直悩みました。そこで、考えたこととしては、あとで復習していただけるように教材はフルでお渡しする、操作の流れをきちんとお伝えして、研修後に自己学習でフォローできるようにする、ということでした。
繰り返しになりますが、ご期待に添えて安心しました。


—ICAEA JAPANに期待すること

弓塲:では、最後にICAEA JAPANに期待することをお聞かせいただけますか。

石井様:ICAEA JAPANでは、ACLのスクリプト開発の支援も行っていただけるのですか。

弓塲:ICAEA JAPANは教育機関ですので、ACLのスクリプト開発のご支援は行っていません。ただ、私が代表をしている三恵ビジネスコンサルティング株式会社でCAATs導入支援をさせていただいており、CAATs導入支援の一環でACLのスクリプト開発のご支援をさせていただいています。イメージとしては、監査手続を一緒に考えて、データの特定および入手を一緒に行い、手続を実施するためのスクリプトのドラフトを私どもが作成し、その後はお客様の方でメンテナンスを行っていただくようなイメージです。

石井様:そういったサポートをしていただけると非常に助かるかなと思っています。csvであれば会社から貰えると思うのですが、それを超えて直接コンピューターからデータを貰うとかそういうレベルになってくると、ちょっと我々では手に負えない部分もあると思います。

15_seiryo-audit

弓塲:ODBCで接続するというイメージですね。
もちろん個別の案件がございましたら、ご相談ください。
私は、CAATsを実務で活用できる技術者を世の中にどんどん増やしていきたいと考えており、そのためのご支援をさせていただきたいと思っております。

16_seiryo-audit

弓塲:本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

 

~インタビューを終えて~


清稜監査法人様は、Excelを利用して高度なデータ処理を行われており、CAATsの先進的な事例としてお話をお聞きしました。清稜監査法人様に限らず、データを有効に活用して監査を行っている法人様は多いと思いますが、データ量の増大に伴う対応と手続の高度化や担当者間での引継ぎといった課題への対応には苦慮されている法人様も多いのではないかと改めて思いました。CAATsは技法であり、データを利用して実施する手続の立案や手続実施に必要なデータの特定なども重要な要素になってくるため、CAATsツールのみに焦点を当てることはナンセンスなのですが、とはいえ、どのようなCAATsツールを選択するかは重要な要素になります。何よりもCAATsツールの選定に限らず、手続の立案やデータの特定などに関し、方法論が社会に確立していないことが、CAATsの普及に対する課題ではないかと考えており、一つの方法論としてICAEA JAPANが提言できればと思い、活動をしています。
インタビューを通じて、今後、CAATsの普及に向けてメソドロジーとテクノロジーの普及に努めていきたいという想いを改めて強く持つに至りました。

 

<ベルシステム24ホールディングス>「CAATs導入の狙い、効果と今後の課題」(1/2)

最終更新日時:2018年08月30日

カテゴリー:

2018年7月13日(金)
株式会社 ベルシステム24ホールディングスの監査部 余郷 雅巳様、高橋 文博様に、ICAEA JAPANの代表理事弓塲がCAATsを導入された経緯や活用方法、当協会に対する期待などを伺いました。

bell24001
 
 余郷 雅巳様
 株式会社ベルシステム24ホールディングス
 監査部 部長
 【略歴】
 20044月株式会社ベルシステム24に入社し法務部門に配属。
 20089月に法務・コンプライアンス部長、2011年より監査部長。
 
 高橋 文博様
 株式会社ベルシステム24ホールディングス
 監査部 マネージャー
 【略歴】
 20042月株式会社ベルシステム24に入社。
 20149月監査部配属、20163月より現職。
 国際認定CAATs技術者(ICCP)、システム監査技術者、内部監査士。
 


—なぜCAATsを導入したのか

弓塲:本日はよろしくお願いします。

余郷様、高橋様:よろしくお願いします。

弓塲:まず、御社の会社概要について簡単に教えていただけますでしょうか。

余郷様:はい。業務内容としては、ご存知の通りコールセンターの受託になります。お客様は、銀行、証券、損保といった金融系から通信キャリアや通販系の会社等多岐にわたります。もともと我々はコールセンターで電話を受ける業務が専門領域だったのですが、商品の発送からアフターフォローやダイレクトメールの発送を含め、パッケージで委託したいというお客様のニーズもかなり高まってきており、その対応も行っています。また昨今では、外資系のお客様も増えてきており、多言語で対応できるサービスも提供しています。

弓塲:現在、従業員の方はおよそ何名くらいいらっしゃるのでしょうか。

余郷様:そうですね、正社員はおよそ1,200名、あと、現場での電話対応にあたるオペレーターを、コミュニケーターと呼んでいますが、およそ26,000名おります。

弓塲:26,000名ですか。

余郷様:はい、コミュニケーターはいわゆる契約社員ということで、従来は有期契約がほぼ100%だったのですが、最近は人材確保が非常に難しいことから、無期雇用化など様々な人事施策を導入しています。正社員といわゆる契約社員の差がなくなりつつありますね。

bell24002

弓塲:なるほど。実は先日、高橋様からCAATsを主に労務監査の領域で使われているとお聞きしました。CAATsを使う領域としては色々あると思うのですが、御社で特に労務に注力されている理由を教えていただけますでしょうか。

余郷様:はい。もともと、当社では過重労働やサービス残業など労務管理の領域でコンプライアンス上の課題を抱えておりました。もちろん、内部監査の結果としてそれらの状況を被監査部門にフィードバックして改善に向けた取組みを促してきたわけですが、特にサービス残業については目に見えた成果を出すに至っておりませんでした。

過重労働については、人事主管の勤怠システムで社員ひとりひとりの労働時間を各職場で把握することができましたので、それらの状況に応じて職場単位で改善活動が可能でした。

一方でサービス残業については、実態を把握できる仕組みがなく、内部監査の際に監査部が独自にデータを分析することによってサービス残業懸念者の抽出をしておりました。つまり、監査対象部門は内部監査の一環で懸念情報の提供を受けることができるわけですが、他の部門はそれらの機会がないことから実態把握もできず、当然ながら改善活動もままならない状況が常態化しておりました。

以上のようにサービス残業については、タイムリーに全社の状況を把握することができず、各職場でも実効的なマネジメントができない状況であり、長時間労働やサービス残業が社会問題化するなか、これらの適正化に向けた仕組み作りが喫緊の経営課題となっておりました。

このような状況の中でいろいろと検討したところ、CAATsツール(※1)を導入することで、大量のデータに対して適正にアプローチして、タイムリーに全社的な状況把握ができるだろうということで、まずは労務監査の領域からCAATsの利用を進めていきました。

弓塲:今のお話では、CAATsを導入する1つの動機は、全社、全社員に向けたモニタリングであったということですね。

余郷様:はい、その通りです。

bell24003


—CAATsを利用する上で苦労した点

弓塲:実際にCAATsを使う上での課題、苦労した点などはありましたでしょうか。

余郷様:そうですね、モニタリングの仕組みを構築することはできましたが、そのあとのマネジメントに課題があると認識しておりました。

CAATsの仕組みを導入することで、サービス残業の全社的な状況が個々の社員単位で把握することができるようになりましたので、2年ほど前からは全社に対して月次で各事業部や各部門の傾向や長時間のサービス残業が懸念される社員情報などを展開しています。

一方で監査部の取組みとしては情報共有に留まっており、サービス残業懸念者へのヒアリングやサービス残業が確認された社員へのマネジメントなどは職場まかせになっておりました。監査部としても実効性ある取組みに向けて、さらなるステップの必要性を認識しておりましたので、現在では、ヒアリング結果に関する報告を義務化したり、事案の内容によっては人事部門と連携するなど各職場での改善活動にも監査部が積極的に関与しています。

弓塲:なるほど、大量のデータを使って、まずは見える化をしたということですね。今はその次のステップで、その情報を使って、如何にマネジメントしていくかということに取り組んでいる、ということですね。

余郷様:はい、その通りです。

弓塲:人事部門と連携するために必要なデータを作成するという部分で、苦労された点はあるでしょうか。

高橋様:そうですね、弊社では24時間稼働している部門が多く存在し、そうすると、時間の算定において、26時、27時といった深夜部分のカウントが非常に難しくなります。日付も変わりますので一体どこでしきい値を切ればよいかなど、その辺りの取り決めが大変でしたね。深夜残業をされた方でも、例えば26時くらいまでお仕事をして、そこから適正に打刻をして退勤されている方と、そうでない方、つまり日付を跨いでサービス残業をしているような方をどの様にして切り分けをしながら抽出し人事部門と共有するかについて、多くの調整が必要でした。

弓塲:どうやってその課題をクリアされたのですか。

高橋様:テクニカルな面でいえばエージーテックさん(※2)のサポート部門に大変お世話になりました。ACL特有の関数を利用するだけではなく、突合するための作業構築しなければならなかったのですが、その理解が不十分な状態まま自己流で進めてしまうと、結果に不具合が生じます。この部分は、サポートの方の丁寧な協力を得てクリアすることができました。非常に感謝しております。

bell24004

弓塲:なるほど。他にも、苦労された点はありますか。

高橋様:そうですね。入退室ログについては、入室と退室の結果だけですので、例えば、たまたま忘れ物をして再度入退室をしただけの方もいますし、本当にサービス残業をしているのかどうかの確認は難しく、どのようにして心証を高めていくのかという点が苦労したところです。

弓塲:それは結局、ケースバイケースというか、個別の事情も勘案しながら、しきい値というか、基準を決めていくということでしょうか。

高橋様:はい。まずは退勤(出勤)打刻時間と退室(入室)ログ時間との乖離が1時間以上といったしきい値で判断しています。また、入退室ログだけでは判断できない場合は、例えば打刻後のPC操作ログの有無を追加確認するなどにより検証しています。とはいえ、弊社の場合、入退室ログだけでも月間800万レコードありますので、検証行為の自動化は大きな課題でした。そこでCAATsツール(※1)を使って、まずは懸念がある部分だけ抽出し、詳細に検討するためのレコードを絞るという作業を行いました。CAATsツール(※1)を利用することで、大量のログデータでもスムーズに突合せ作業ができました。

bell24005

弓塲:月次で行われるお仕事だと思いますが、定型的に処理できる部分と、毎月データを眺めながら、しきい値の調整や新たな抽出条件の検討等、非定型的な作業も実施しているということでしょうか。

高橋様:はい。懸念データの判断は結構難しく、退勤打刻と退室ログの時間にしきい値を超える乖離が生じていたとしても、安易にサービス残業をしていると結論付けするのはハレーションを伴います。例えば、時差出勤で早く出社し休憩室等で待機をしている従業員もいれば、業務終了後、休憩室で休息を取る従業員もおります。そうなると、従業員への配慮も必要ですので、しきい値の見直しや抽出条件の変更、懸念データの判定など、労務グループと随時相談をしながら実施しております。

弓塲:社員の人にとってみれば、そのように見られていることについて、ポジティブに感じる部分もあれば、なぜそこまで見られる必要があるのかと感じる部分もあると思いますが、それについてはどのような形でコミュニケーションされているのでしょうか。

余郷様:マネジメント層からモニタリングの目的について丁寧な説明をしてもらうようにしています。その結果、一定の抑止効果が出てきていると実感しております。このモニタリングは3年くらい前からスタートして、全社のデータを見ていますけれど、徐々に懸念される時間の総数が下がってきているという状況があります。当然、各職場のマネージャーもしっかりマネジメントはしているとは思うのですが、やはり各社員が、自分達の勤怠状況がチェックされているのだという意識が、1つの効果になっているのではないかと思います。

弓塲:見られているという意識がコンプライアンスを遵守するという意識の醸成につながっているということでしょうか。明確に効果が見えているのですね。


※1:株式会社ベルシステム24ホールディングス様は、ACL Analytics(開発元ACL Services Ltd.)を導入されています。

※2:ACLを日本で販売している株式会社エージーテックのことを指します。

https://www.acljapan.com

次号につづく»

<ベルシステム24ホールディングス>「CAATs導入の狙い、効果と今後の課題」(2/2)

最終更新日時:2018年08月31日

カテゴリー:

2018年7月13日(金)
株式会社 ベルシステム24ホールディングスの監査部 余郷 雅巳様、高橋 文博様に、ICAEA JAPANの代表理事弓塲がCAATsを導入された経緯や活用方法、当協会に対する期待などを伺いました。

bell24001
 
 余郷 雅巳様
 株式会社ベルシステム24ホールディングス
 監査部 部長
 【略歴】
 20044月株式会社ベルシステム24に入社し法務部門に配属。
 20089月に法務・コンプライアンス部長、2011年より監査部長。
 
 高橋 文博様
 株式会社ベルシステム24ホールディングス
 監査部 マネージャー
 【略歴】
 20042月株式会社ベルシステム24に入社。
 20149月監査部配属、20163月より現職。
 国際認定CAATs技術者(ICCP)、システム監査技術者、内部監査士。
 


—CAATsの利用についての今後の課題

弓塲:CAATsを利用されることで、明確に効果が見えているということですが、今、敢えて課題があるとしたら、どういったところにあるとお考えでしょうか。

余郷様:最近の働き方改革の一環ですが、ノートパソコンを貸与されている社員は、許可があれば社外で仕事ができるようにすることで、利便性を高めています。先ほどの勤怠ログと入退室ログの突合というのは、社内で仕事をしているということが大前提になります。しかし、現状は、我々間接業務に従事する社員も含め、自宅や、お客様のところでも仕事ができる環境になってきており、それをある意味推奨している部分もあります。従いまして、単純に勤怠ログと入退室ログの突合だけでは、サービス残業の懸念状況を確認することができない時代に入っています。
 
そこで今後は、勤怠データと各社員のPC操作ログを突合することでサービス残業に関する懸念情報を共有できる仕組みを作っていくことにしています。すでにテストを始めておりますが、今後は全社的な規模で、情報共有をしていきます。いずれにしましても、このような手法を取り入れなければ正しく労働時間の把握ができなくなってきている状況にありますね。

弓塲:入退室ログとPCの操作ログでは、ログ件数はPCの操作ログのほうがはるかに多くなるように思いますが。

余郷様:そうですね、データ量としては飛躍的に増えるようです。そのためにはデータ量に耐えうるサーバーの容量が必要ですので、CAATsツール(※1)を安定稼働するために1千万円規模の投資を行い、サーバーのリプレイスを実施しているところです。

弓塲:今、仰ったのは、働き方が変わっていく中で、入退室ログだけでは労働時間を捉えきれなくなったため、一番確実なPCの操作ログを分析対象にしていく。この場合はデータ件数が飛躍的に増えてしまうため、サーバーの増強をして内部監査の環境を整備したということでしょうか。

余郷様:そうですね。

弓塲:素晴らしいですね。

高橋様:実は当局による他社への査察の際にも、勤怠の打刻データと入退室データ、そしてPC端末の利用状況3点をセットで提出するよう指示されるケースが多いのです。弊社としても、当局の目線に合わせるという意味では、PCの操作ログまで分析対象にすることで、ようやく完成形に近くなるのではないかと思っています。

余郷様:我々監査部は社長直下の組織でもありますので、いかに社長が善管注意義務違反に問われないような経営体制を作っていくのかという点も、重要なポイントだと考えております。
 
今、高橋も申し上げたように、当局がPCの操作ログの提出も求めるということは、裏を返すと、端末の利用状況も含めて管理をすることも、会社として求められている取組みになると理解しています。
 
逆に、このような管理をしておらず、もし問題が起きた時には、会社としてやるべきことをやっていないという責任の問われ方をされる可能性もありますので、そういったところにも配慮しながら、全社レベルで情報共有できるような仕組みを作っていこうとしています。

弓塲:勤怠ログと入退室ログの収集は比較的容易にできるのではないかと思いますが、PCの操作ログを取得するためには、新たな仕組みを入れないといけないため、相応の投資が必要になりますね。

高橋様:余郷も申し上げた通り、まずは、サーバーリプレイスにより、PC操作ログも含めた分析に必要な環境が出来上がります。CAATSツール(※1)の非常に良いところは、投入できるログの数に制限がないことです。PCの操作ログは単月で5ギガバイト程度になると想定しております。

弓塲:そんなにあるのですか。

高橋様:はい。その5ギガバイトの操作ログから、どのような基準で懸念のあるレコードを抽出するか、ここが非常に重要だと思っています。まずは打刻時間との乖離を確認しますが、さらに、退勤打刻後のPC操作ログが1時間以上発生しているなど、一定のしきい値を設けてデータを抽出し詳細分析をするという方法を考えています。

弓塲:つまり、5ギガバイトのデータを最初はざっと全般分析して、しきい値あるいは条件を決めていくということですね。

高橋様:そうですね、今、まさにチューニング作業をしているという状況ですね。

bell24007


—なぜCAATsを導入したのか

弓塲:本当に先進的な使い方をしているのだと思いますが、今、CAATsを使って監査されている対象としては、労務監査だけでしょうか。

余郷様:モニタリングという観点からは、労務の領域以外では、売上や経費の計上、P/Lの異常値の分析といった領域にも使っております。

弓塲:そうですか。比重的にはやはり、労務監査が大きいのでしょうか。

余郷様:今のところはそうですね。一方で会計面での積極的な活用も視野に入れております。当社には2,000件程度のJOBが日々運用されておりますが、それらのJOBに関する売上や利益(原価)の増減を月次単位で分析しており、異常値が確認された場合、例えば前年の平均値から20%以上売上が変動したり、原価は変わっていないのに売上が増加するなど不正な売上計上が懸念されるJOBを自動的に抽出できるような仕組みを作りました。

弓塲:それは、CAATsツール(※1)で作られたのですか。

余郷様:はい、CAATsツール(※1)で作りました。

高橋様:関連したところでは、昨今、様々な製造業で品質偽装が発生していますが、弊社においてそのような事象が発生しないようコールの品質における、応答率や対話率といったKPIで測れるようなものは、いずれはCAATsツール(※1)を活用してモニタリングをしていきたいという構想があります。

余郷様:今、高橋が申し上げた各ジョブに関連する様々なデータは、お客様への請求金額につながる請求データの元になっています。
 
今は正しいデータが請求書に反映されているという前提でJSOXの評価はしていますが、本当にそうなのかというところはもう少し厳密に見ていく必要があるのではないかと感じています。この領域にCAATsツール(※1)を活用することで、突破口になればと考えています。

bell24008

弓塲:お聞きしていて感じたのですが、CAATsツール(※1)を入れることにより大量のデータ分析が比較的容易にできるということから、様々な経営課題を解決していくためのアイディアがどんどん湧いてきているというイメージを持ったのですが、いかがでしょうか。

余郷様:そうですね、高橋マネージャーを中心に、若手社員が前向きに活発なディスカッションをしてくれており、様々なアイディアが出てきていると思っています。今後は出張旅費の架空請求など、経費支出の領域でもモニタリングを強化して不正行為に対する一定の抑止効果を図っていきたいと考えております。

高橋様:その「抑止効果」の先には、従業員を守るという意味があると思いっています。弊社は人が資産なので、従業員が安心して働ける環境の向上を目指すためにも、CAATsツール(※1)の有効活用に励んでいます。

弓塲:素晴らしいですね。


—ICCP試験対策講座を受講していただいた理由と役に立ったこと

弓塲:あと何点かお聞きしたいのですが、非常に先進的にCAATSツール(※1)を使われているので、もうCAATsツール(※1)の勉強はしなくてもよいのではないかと思うのですが。

余郷様、高橋様:いやいや(笑)。

弓塲:今回、高橋様にICCP試験対策講座を受講していただきましたが、どうして受講されようと思ったのですか。

高橋様:まず、ナレッジはどうしても属人化しやすいと感じていて、部門の中で私が率先してCAATsについて体系的に学んでいくことで、部内でシェアが図れることを期待しておりました。
 
もう1つは、ICCP有資格者というステータスを得ることで、監査部としてのブランド構築、ひいては会社としての評価やブランドの向上に貢献できること、大きくその2つが貴協会の研修を受講しようと思った理由でした。

余郷様:我々監査部の能力は、なかなか数値のようなもので客観的に表せる領域ではありません。その意味で、どのような資格を持っているかは大事な部分だと思っています。

弓塲:ありがとうございます。貴社の監査部のブランド構築のお役に立てるよう、ICCPを始め、CAATs監査士の資格が社会に認知されるように私どもも努めてまいります。実際に研修を受けていただいて、ご感想はいかがでしたか。
 
今後の参考にさせていただきたいため、耳に痛いことでも結構です!

高橋様:CAATsツール(※1)を使っているとしても、私のようなプレイングマネージャーとCAATsツールを専属的に利用している方を比較した場合、研修カリキュラムが同じなのでどうしても理解・吸収のスピードに差が生じてしまうと感じました。もし専属で利用していないような方であれば、私も受講済みですが、エージーテックさん(※2)にて実施しているACLの基礎講座を受講してからICCP試験対策講座を受講することでスムーズな理解・吸収さらにはICCP試験の合格が可能になるのではと感じました。

弓塲:貴重なご意見として、参考にさせていただきます。研修が終わってから、課題を3回、提出していただきましたが、やはり専門的な部分が色濃いということもありまして、課題の内容を将来的に改善していこうと考えています。また、研修を受けていただいて、いろいろな課題にチャレンジしていただいていると思いますが、特に参考になっていることはありますか。

高橋様:スクリプトですね。今まさに目の前の課題として取り組んでいるのが、サーバーリプレイスに伴うスクリプト修正です。サーバーリプレイスをすることで、取り込むデータの形式が変更となることが判明しました。そのため、今回の研修や課題で学んだスクリプトの知識は大変役に立ちました。

弓塲:ありがとうございます。私も20年来CAATsに取り組んでいますが、スクリプトの良さというのは、なかなか人に伝わっていないのですね。それが伝わったのであれば、本当に良かったと思います。


—CAATsまたはICAEA JAPANに期待すること

弓塲:また、今後、CAATsまたはICAEA JAPANへの期待がおありだと思うのですが、差し支えない範囲でお聞かせいただければと思います。

余郷様:もともと監査ではサンプリング調査が主流でしたし、我々の監査部門でも、以前はヒアリングを重視しておりました。しかしながら、ヒアリング能力は人によってスキルに大きな差が出ますし、業務品質にもバラツキ出てしまいます。
 
そういった意味で、CAATsツール(※1)を活用することにより、監査業務の標準化も図ることができると思っています。
 
将来的にはAIの導入も重要なテーマになっていくものと考えておりますしRPAの活用については今期から具体的に検討を始めているところです。あとは、監査のイメージを変えていきたいと思っていますね。いまでも伝票類や台帳類をひっくり返して、重箱の隅をつついているようなイメージを持っている人がまだまだ多いと思うのですが、そうではなくて、「最新のテクロジーを使ったいわゆるデジタライゼーションで監査業務の変革を図っているのだ!」ということを社内にしっかり広めて、多くの社員に監査の現状を理解してもらい、ひいては優秀な人材の確保も含めて、PRしていきたいと思っています。

bell24010

弓塲:ありがとうございます。時代の変化に合わせて監査を改革するぞ!という意気込みを感じました。
 
最後になりますが、ICAEA JAPANに期待することは、ありますでしょうか。

 

高橋様:そうですね、やはり、多くの事例が欲しいですね。今、余郷の方からRPAと申しましたが、CAATsツール(※1)とRPAを絡めた事例の提供ですね。
 
RPAを提供するアプリケーションは数多くありますが、それらとCAATsツール(※1)をどのように連携させるのが望ましいのかといった情報が殆どありません。CAATsツール(※1)とRPAを絡めたらこんなことができるようになったという事例を、今後どんどん提供いただけると非常にありがたいと思っています。

弓塲:分かりました。RPAについては、RPAと似たような言葉でRDAというのがありますが、RPAはRobotic Process Automation、RDA はRobotic Desktop Automationです。RPAの方は、プロセスですから、複数のアプリケーションを一元的に自動化できます。RDAは、1つのソフトの中で自動化できます。CAATsツール(※1)はこのRDAの一種なのですね。
 
ですから、強いてRPAと絡めるのであれば、データの入手の部分になります。つまり、特定のフォルダにデータを入れますよね、そのプロセスを自動化するということです。例えば所定の基幹システムのデータをダウンロードしてフォルダに入れるなどは、RPAの世界になりますね。また、RPAの設定でCAATsツール(※1)を起動して所定のスクリプトを走らせるというところまで行えるのであれば、それはRPAの世界になると思います。ですから、もしRPAと絡める効果があるとするなら、フォルダの中にCAATSツール(※1)で使うソースデータ、これを自動的にセットする部分は、RPAで制御できるということです。

高橋様:では、そこは敢えて分けて構築したほうがスムーズかもしれないという理解でよろしいのでしょうか。

弓塲:そうですね、おっしゃる通りです。といいますのは、CAATsというのはツールだけではなく、シナリオを作って、定型的な処理を走らせて、アウトプットが出て、それを検討するということが必要ですよね。
 
例えば先ほど、毎月サービス残業について懸念者の抽出をされる中で、チューニングされているというお話でしたけれど、そのような部分はやはり自動化はこれからも難しいと思います。ですから、アウトプットを出力するなど自動化できる部分はCAATsツール(※1)で行い、敢えてCAATsツール(※1)を開いてスクリプトを走らせるところまで自動化したいのであれば、その部分はRPAのソフトでできるものもあるかとは思います。そういう論点整理になるかと思います。

高橋様:なるほど、分かりました。先日より社内において、RPAのツールとCAATsツール(※1)の相性を確認し始めたところでしたので、注意して今後進めていきたいと思います。

弓塲:そうですね、監査は判断することが重要になりますから、あまり固執して全自動化ということを考えなくてもよいかもしれません。

余郷様、高橋様:アドバイスありがとうございます。

弓塲:いえいえすみません、恐縮です。本日はすごくいいお話をたくさんお聞かせいただきました。
ありがとうございました。

余郷様、高橋様:ありがとうございました。

bell24011


※1:株式会社ベルシステム24ホールディングス様は、ACL Analytics(開発元ACL Services Ltd.)を導入されています。

※2:2019年までACLを日本で販売していた株式会社エージーテックのことを指します。

 

~インタビューを終えて~


株式会社ベルシステム24ホールディングス様は、労務管理の領域から会計の領域まで、様々な経営課題の分析にCAATsを積極的に活用されていました。時代の変化と共に、強い意志をもって内部監査の変革へ取り組まれていることが分かりました。この内部監査の変革への取り組みに、ICAEA JAPANもお役に立てるよう努めてまいります。

 

<太陽有限責任監査法人>「データ・アナリティクス・スペシャリスト」の人材育成に本格的に取り組む!」(1/2)

最終更新日時:2018年05月08日

カテゴリー:

2018年5月9日(水)
太陽有限責任監査法人の監査業務推進部 部長、パートナー 公認会計士の柴谷哲朗先生に、ICAEA JAPANの代表理事弓塲が当協会のサービスを選択された理由や効果、ねらいを伺いました。

taiyothumbnail001

 柴谷 哲朗先生
 太陽有限責任監査法人 パートナー 公認会計士
 監査業務推進部 部長
【略歴】
 平成9年公認会計士登録。現在、太陽有限責任監査法人のパートナー。会計監査業務のIT化・業務改善に取り組んでいる。


—なぜ「データ・アナリティクス・スペシャリスト」人材の育成に本格的に取り組まれたのか

 

 

弓塲:本日はよろしくお願いします。

 

柴谷先生:よろしくお願いします。

 

弓塲:まず、貴法人が「データ・アナリティクス・スペシャリスト」という人材の育成に本格的に取り組む理由をお聞かせください。

 

柴谷先生:今から2~3年前にAI(人工知能)やデータ・アナリティクス、ディープ・ラーニング等が話題に取り上げられるようになり、「すごい時代が来る!」といった印象を受けていました。監査業界としても、こうしたIT化の波を受けて、監査人が職を無くしてしまうかもしれない、といった懸念があがり始めていたと思います。

 

その当時、AI(人工知能)やデータ・アナリティクス、ディープ・ラーニングを専門にしている方々と意見交換を行った際には、世の中においてデータ・サイエンティストが非常に不足しており、そういった人たちがいなければ、データ・アナリティクスやディープ・ラーニングは実現できないというお話もお聞きしました。一方で、日常の監査業務において、そこまで高度な技術を有していなくとも、きちんとした仮説に基づく検証手続を実施できれば、監査業務においてデータ・アナリティクスを利用できる場面も多く、いきなり莫大なコストをかけずに対応する方法もあるのではないかとも考えていました。

 

このことから、当時より「データ・アナリティクス・スペシャリスト」という人材の育成には、ずっと取り組まなければいけないと思っていましたが、なかなか法人内のリソースだけで対応することは困難だと感じていました。然るべきIT投資を行い、人材についても外部への委託のみならず、法人内でも一定のIT人材を採用しなければいけないと思っていたところ、ICAEA JAPANとの出会いがあり、先ほど申し上げたような高度な技術への対応というのは、引き続きチャレンジしていかなければならないものの、日常の監査業務に従事している監査担当者が実施できる分析の手法を確立していくことが重要であり、かつ即効性もあるというイメージに共感させていただきました。その上で、CPA(公認会計士)を「データ・アナリティクス・スペシャリスト」として育成した方が、投資対効果が非常に高いのではないかと考え、取り組みを始めているところです。

taiyothumbnail002

 

弓塲:ありがとうございます。公認会計士がこの「仮説に基づく検証手続を実施できる技能」を身につけるということは、以前から私も非常に重要だと考えていましたし、特にIT化の波が押し寄せている昨今では、公認会計士自身がこの技能を身につけなければ、監査人に対する社会からの期待に十分に応えることが難しいのではないかと常々、思っていました。

 


弓塲:次に、貴法人では、「データ・アナリティクス・スペシャリスト」という人材を多く有することに優位性があるとお考えのようですが、それはどのような視点でお考えになっているのかお聞かせください。

 

柴谷先生:はい。優位性というのは、『数の上での優位性』だと考えています。日常の監査業務に従事するメンバーが、仮説検証能力を身につけた上で、不正シナリオに基づくデータ分析を日常的に実施できるようになることが効果的な監査につながると考えており、当法人にこういうメンバーが数多く在籍することで、結果的に当法人の優位性が高まっていくと考えています。ハードウエアに投資をするのか、人材というソフトウェアに投資をするのかは極めて高い経営判断になりますが、私共としては誰もが容易にデータ・アナリティクスを活用できる人材育成に投資をしようと考えています。

 

弓塲:つまり、「データ・アナリティクス・スペシャリスト」に求められるスキルを貴法人に所属する全ての監査担当者が身につける世界を実現していくということですね。

 

柴谷先生:はい。その通りです。なかなか、全ての監査担当者というわけには行かないかも知れませんが、目指すべきところはそこだと思っています。

 

弓塲ありがとうございます。

 


弓塲:次に、データ・アナリティクスの利用目的として、リスク評価手続やリスク対応手続の劇的な深化、手続の大幅な合理化、そしてデータ分析結果のビジュアル化という3つを挙げられているようですが、その理由をお聞かせください。

 

柴谷先生:はい、当法人は『社会が監査に何を求めているのか』、つまり、『監査に対する社会的な期待』ということを常に考えています。
会社自身が当たり前のようにデータを分析し、実務に利用していく社会が、5年後、10年後には実現しているかもしれません。そのように考えると、おそらく我々監査人の最終的な役割は不正・誤謬の発見になるのではないかと考えています。

 

弓塲:なるほど。

 

柴谷先生:いずれ、ブロックチェーン技術が社会全体に浸透していくことで、データの改竄が困難となることから、不正ではない通常の仕訳については、そもそも正しいということを会社自らが明らかにできるようになると考えます。この様な前提のもとで監査人が役割を果たせる領域というのは、見積もりの監査や外部との共謀による不正をどのように見抜くかなどといった領域になってくるのではないかと考えています。

 

また、『高品質な監査』というのは、『問題を発見する、間違いや不正を発見する力』と定義することもできますが、『問題や間違いを起こさせない監視としての機能』も概念として含まれていると考えています。イメージとしては、ドライブレコーダーです。ドライブレコーダーは、事故にあったときや不測の事態に備えるという用途で設置する人が多いと思いますが、自分の運転が正しかったことを証明するものでもあります。その結果、スピード違反をしないように気をつけたり、居眠り運転しないように気をつけたりなど、防止機能としても働くということです。
『監査人は様々な視点でデータを監視してますよ』というメッセージが会社の方々に強く伝われば、不正自体を未然に防ぐことができるようになると考えています。

taiyothumbnail003

弓塲:なるほど。

 

柴谷先生:手続の大幅な合理化については、あまり複雑なことは考えていません。現状、手作業で行っているものや、部分的にアシスタントが行っている単純な作業を大幅に合理化できると考えています。CAATsツールの操作履歴から簡単にプログラムを作成するなど、プログラムの再利用や簡単なツール化といったことでも、きっと合理化を達成できるのであろうと思っています。

 

弓塲:ブロックチェーンの技術が社会に浸透してくると、取引記録そのものの適正性は担保されるようになり、そのような中で、監査人に対する社会の期待役割としては、それ以外の領域、具体的には、不正や誤謬の発見にある、非常に興味深い考え方だと思いました。

 

データの歪みやバラつきといった事象に対し、きちんと仮説を立てて日常的に検証していく、それを自動的に行う。そうすることによって、監査人が常にデータをモニタリングしている状況となり、不正を働こうと思った人も、見つかるからやめようと防止につながっていくということですね。

 

柴谷先生:そういうことです。

 

弓塲:大変、興味深い考え方ですね。ありがとうございます。

 

弓塲:では次に、2020年までに、全ての上場クライアントの監査手続に、データ・アナリティクスの手法を取り入れる計画であると伺いましたが。

taiyothumbnail004

柴谷先生:(笑)

 

弓塲:200社以上に、データ・アナリティクスの手法を取り入れるということは、貴法人に所属する監査担当者は、当たり前のようにCAATsツールを使ってデータ分析を行って監査手続を実施する。その前提となる仮説立案ができる人材を育成していきたいということですね。
そういう世界を実現するために、私たちも頑張ります!

 

柴谷先生:はい、是非、よろしくお願いします!!

 

次号につづく»

<太陽有限責任監査法人>「データ・アナリティクス・スペシャリスト」の人材育成に本格的に取り組む!」(2/2)

最終更新日時:2018年06月05日

カテゴリー:

2018年5月9日(水)
太陽有限責任監査法人の監査業務推進部 部長、パートナー 公認会計士の柴谷哲朗先生に、ICAEA JAPANの代表理事弓塲が当協会のサービスを選択された理由や効果、ねらいを伺いました。

taiyothumbnail001

 柴谷 哲朗先生
 太陽有限責任監査法人 パートナー 公認会計士
 監査業務推進部 部長
【略歴】
 平成9年公認会計士登録。現在、太陽有限責任監査法人のパートナー。会計監査業務のIT化・業務改善に取り組んでいる。


—現在のCAATsツールの利用方法と対応、また今後の利用方法と対応について

 

 

弓塲:差し支えない範囲で結構ですので、現在導入されているCAATsツールの利用状況、今後の活用方針等についてお聞かせください。

 

柴谷先生:はい。現状では、サンプリングでの利用に留まっているというのが実情です。データ・アナリティクスへの利用は限られています。クライアントからデータを受領し、CAATsツールを使って、どのようにデータを処理して監査手続に結び付ければ良いのかなどのノウハウが法人内に十分に蓄積しておらず、CAATsツールを有効に活用するためには、まだまだやるべきことがあると考えています。

 

すでに、表計算ソフトを使った分析というのは、それなりに取り組んでおり、実務でも活用しているのですが、監査手続の再実施可能性の確保や監査調書の効率的な作成という観点からは、まだまだ改善の余地があり、解決すべき課題があると考えています。CAATsツールをもっと活用することで、これらの課題をかなり改善できるはずだと考えています。

 

弓塲:確かに、監査手続の再実施可能性の確保や監査調書の効率的な作成という意味においては、CAATsツールは、間違いなく表計算ソフトよりも、数段上のレベルで担保できると思います。現状、表計算ソフトで行っている領域の内、少なくともデータ処理部分をCAATsツールに置き換えることで、監査の効率性は間違いなく向上します。特に監査調書の作成については、CAATsツールの特長のひとつである『操作履歴がログに自動記録される』という機能を有効に使うと監査調書が自動的に作成できる方法があります。

 

柴谷先生:それは大変興味深いですね。今、私共がCAATsツールの有用性についてよく理解していない部分、監査調書の落とし込み方などを含めてノウハウを提供していただけることを、非常に期待しています。

taiyothumbnail006

弓塲:わかりました。そこは是非、研修でしっかりとお伝えしたいと思います。

 


—今後のICAEA JAPANに期待すること

 

弓塲:今後のICAEA JAPANに期待することをお聞かせください。

 

柴谷先生:はい。期待ばかりが膨らむのですが、最も期待するのは、貴協会が提案している仮説立案技能です。監査人のコンピテンシーとして、『良い問いかけができるか』ということと、『その問いかけに対して、実際に解決することができるか』という2つを考えた時に、後者については、取引記録のデータ化が現在のように進んでいなかった時代においては、取引記録の中からリスクの高い事象を抽出してその信頼性を監査証拠の入手によって確かめるといったプロセスに習熟していると思うのですが、取引記録のデータ化が高度になってくると、データがどのような形でテーブルに格納されているのか、どのように構成されているのかが分からないと、適切にリスクの高い事象を見つけることすらできなくなってしまうと思います。

 

データの中に自分たちが使える武器があることを理解した上で、データの生成プロセスやデータの持ち方、データの関係性などを理解するだけで、どのように課題を解決していくのか、自ずと答えが見えてくるはずです。データとデータを照らし合わせれば、不正シナリオに対する取引を抽出することもできるようになると思っていますので、そこに非常に期待をしています。これらは一連の思考プロセス、すなわち仮説立案技能に則って行われると考えますので、仮説立案技能こそが私たち監査人にとって身につけるべきスキルの一つだと思っています。

taiyothumbnail007

柴谷先生:一方で、データ処理や分析技能については、ツールの実行から調書化の方法までを含めた一連のフレームワークがあると思いますので、これらを取り入れることで業務の標準化・統一化が行われ、効率的な監査につながることに期待しています。また、データ分析の結果、興味深いデータ(結果)が得られ、これをビジュアル化することができれば、クライアントのマネジメントや監査役の方々にも非常に分かりやすく説明ができるのではないかと思っています。

 

データ自体が会話の糸口となって、私共からも、『良い問いかけ』を行うことができる。また、クライアントからも、私共に異なる視点でデータを見て欲しいというリクエストを受けるなど、ガバナンスに関して非常に有効な議論のきっかけになり得るとも思っています。こうした会社とのディスカッションを通じて、監査手続の深化を目に見えた形で感じていただくことで、クライアントから私共への新しい信頼に繋がってくるであろうと、そのように考えています。

 

弓塲:ありがとうございます。仮説立案についてはおっしゃる通りだと私共も考えています。私自身、CAATsに携わって20年以上が経ちますが、未だに「CAATsで何ができるのか?」という問いかけを少なからずいただきます。その問いかけの本質は、「CAATsで何ができるか?」ということではなく、「どういった手続が必要なのか?」といったことを問われているように感じています。つまり、監査手続の作り方について問われているのだろうと感じています。

 

こうした問題意識に基づき、監査手続の立案に必要な仮説立案というものを重視した研修プログラムを開発しています。仮説立案は、いわば目に見えないコンセプト(概念)を目に見えるように整理して文書化、言語化するプロセスといえます。研修では、このプロセスを監査に焦点を当てたフレームワークとして提示させていただき、反復練習で身につけていただきます。
また、データ処理・分析技能では、スクリプトというCAATsツールの簡易的なプログラムを作成いただくのですが、それも一目見て、どのような手続を実施しているのか分かるテンプレートを用意しており、スクリプトやテーブルのネーミングルールも定めています。これにより、どのような手続を実施しているのかが見易くなります。また、操作記録をCAATsツールではログといいますが、研修では調書用のログを作成する方法をご紹介し、監査調書の効率的な作成方法も練習していただきます。こうしたやり方を周知徹底していけば、他の担当者が実施した手続が一目で分かるようになるため、レビューも行いやすくなり、品質の向上にも繋がり、業務の引継ぎも容易になると考えています。これらの方法論を研修でお伝えしたいと考えています。

 

柴谷先生:はわかりました。よろしくお願いします。

 


弓塲:最後に、「データ・アナリティクス・スペシャリスト」の育成について、法人内においてどのような効果を期待されているかお聞かせください。

 

柴谷先生:そうですね、全国のマネージャーが集まって、10年後の法人についてディスカッションを行う機会があったのですが、その中で、私たちが行っている監査という仕事は将来どう変わっていくのか?仕事のフィールドが狭くなってしまうのではないか?という意見が少なからず出てきました。
データに関わることのできない監査人はこれから価値が薄れていってしまうかも知れない、そういうことに対するキャッチアップができていない危機感というのが、きっとあるのではないかと思います。従って、こうした教育の機会を持てるということは、非常に前向きに捉えてもらえるのではないかと考えています。

 

弓塲:やはり、そのように感じる方が多いのですね。私の持論ですが、監査人はAI(人工知能)やロボットに取って代わられるのではなくて、AI(人工知能)やロボットを使う職業になると思っています。

 

柴谷先生:なるほど。

 

弓塲:ただやはり、AI(人工知能)やロボットを使う監査人になるためには、データをきちんと扱える技能を身につけておかなければならないとも思っています。

 

柴谷先生:データ活用の世界が進んでくると、監査法人における人員構成の在り方も変わってくると思います。今から将来像をイメージして、どうせだったら一番先に皆がデータに強い監査法人になることを目指しませんか?と話をしています。

 

弓塲:それについて、皆さんどのような反応をされていますか?

 

柴谷先生:実際には、まだ実感されていないかもしれません(笑)。

taiyothumbnail008

弓塲:おそらく、今年の夏から研修をさせていただき、CAATsを実務に活用していただくことで、より身近なものとして感じていただけるのではないかと思います。

 

本日は、ありがとうございました。

 

~インタビューを終えて~


太陽有限責任監査法人様は、明確な意図をもって、これからの監査人に必要とされるであろう「データを使って監査をする技法」を監査担当者全員が身につけるための取り組みに、本格的かつ本気で取り組まれていることが分かりました。その極めて重要な経営戦略の実現にICAEA JAPANが果たすべき役割が大きいことに身の引き締まる思いです。ご期待に沿えるように取り組んでいこうという決意を新たにしました。